声のコラム7

マミィズボイス

私が主宰しているレッスンクラスの名前を「マミィズボイススタイル」は、私の名前(マミ)+(声)で「Mami's Voice」と、お母さんの声「Mammy's Voice」を合わせて命名した。その造語に、表現方法とか在り方という意味の「Style」という言葉を付け加えたのだが、この頃、この名前の持つ意味の重さが、ヒシヒシと感じられるようになってきた。

「お前、もういらない!出て行け!ホラ、早く出て行けよ!」と、甲高い女性の怒鳴り声が、突き刺すように聴こる。小学校4~5年生くらいの男の子が玄関から放り出され、中から鍵がかけられ、男の子は泣きながら「開けて~、開けてください」と玄関チャイムを押し続けている。偶然、その家の前を通りがかった私は、驚いて足がすくんでしまった。
何か声をかけようかと躊躇していたら、しばらくして玄関が開き、母親らしき人の手が見えた。次の瞬間、男の子の頭、そして頬を思い切り殴打。男の子は身体を硬くしたまま、家の中へ引きずり込まれてしまった。

また別の日には、スーパーで買い物をしている私の背中に、乾いた声が刺さった。
「だからテメェはダメなんだよ!サッサと行けよ!グズ!」振り返ると、小学校低学年くらいの男の子を小突きながら、お母さんらしき人が吐き捨てるように言っている。キレイに身づくろいをした、若いOL風の女性だ。男の子は硬い表情のまま、ヨロヨロと歩いてつまずいてしまった。女性は、男の子を見下ろしながら、さらにこう言ったのだ。
「みっともねぇ」
思わず振り返った私は、「ちょっと、子どもに何てことを言っているの!」と言ったが、その女性は私の顔をチラっと見て「ウルセぇ」とつぶやいて早足に行ってしまった。赤ちゃんは、お腹の中にいるときから、お母さんの声に耳を澄ましている。4ヶ月半から5ヵ月くらいで、胎児の耳の機能は出来ているのだ。そしてどんな音よりも、誰の声よりも、お母さんの声を熱心に聴こうとする。お母さんの声が、自分の命に直結していることに気づいているからだ。お母さんが嬉しそうにおしゃべりしていると、赤ちゃんも活発に動き、悲しんでいると動きが悪くさえなる。そうまでひとつになっていた小さな命なのに…

私たちのコミュニケーションは、ひとりの例外もなく、お母さんから始まっている。毒のあるお母さんの声や言葉は、子どもの聴覚や脳に、多大なダメージを与えているのだ。子どもの未来も、お母さん自身の未来も、周囲にいる大切な人たちの未来も、全て奪うことにつながりかねない。

幼い生命に与える原初の音を、狂わせてしまってはいけない。
思うようにならない子育て、ストレスの多い毎日、ついイライラしてしまい、声を荒げることは誰にでもある。でも、行き過ぎてはいけない。聴こえてくる声や言葉のトーンや響き(振動)が、良質であればあるほど、私たちの幸福を感知する力も高まるというのに。
もちろん、愛情にあふれた声や温かい言葉を、子どもに伝えているお母さんたちの方が、大多数なのもわかっている。でも不幸にして、それを伝えることも出来ず、親からも与えられていなかったとしても、変えることはできる。必ず、変えられる。

私も「マミィズボイススタイル」の名に恥じないように、次の世代に、精一杯の温かい音や言葉を残せたらと、切に願っている。豊かな声、歓びにあふれた美しい響きは、私たちの未来を育てるのだから。

(2009年8月15日発行のメルマガより・濱田真実)


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